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              最近、ライダーに友人が出来たらしい。 
 いいことだと思う。 
             ライダーは確かにわたしたちの大切な家族だけれど、だからと言ってわたしたちとしか交流を持たないというのはよくない。 
 だから、外に友人が出来るというのは本当にいいことだ。 
『おまたせしました』 
            『遅いよライダー』 
『そうだよ。ライダーは塾も学校もないんだから、遅刻する理由なんかないだろー!』 
             例え、その友人が小学生とかだったとしても。 
 
 そろそろ日が暮れ始め、俺と桜が並んで夕食の準備をすることになってもライダーと子 供たちが楽しく遊ぶ声が聞こえる。 
 ライダーたちは公園とかじゃなく、うちの近所で遊ぶことが多い。 
 近くに藤村先生の実家である藤村組があるために下手な公園よりも治安はいいし、藤村組はそっち系のわりに地元住民には嫌われず、むしろ好かれていて作りすぎた煮物をおすそ分けにくる人とかもいるぐらいだ。 
 まあ組長の雷画さんとか藤村先生が地元住民に恐れられる図というのも想像できないから当然と言えば当然だろう。 
 そんなわけで、晩ご飯の支度をしながらに外に耳を済ましてみるとライダーと子供たちが遊ぶ声が聞こえてくる。 
『ライダー姉ちゃん、あれやってよー』 
『ええ、わかりました』 
 やっぱりなんだかんだ言ってもライダーは年長者らしく、子供たちをあやす側に回っているようだ。実は子供好きなのかもしれない。 
 そんなことを思いながらまた外に耳を傾ける。 
『変……身!』 
 そしてわたしは目の前の窓から外に飛び出した。 
 
 
 
「わー、かっこいー」 
「ねえ、もう一度もう一度−」 
 子供たちの笑顔に囲まれて幸せな空気に浸っていると、背後で窓ガラスを割って人影が飛び出してきた。 
「出たなゴルゴム」 
「誰がゴルゴムですか誰が」 
「痛いサクラ。ギブアップです。ギブアップ」 
 身長差がある私にアイアンクローをかまし、ぎちぎちと締め上げるサクラの肩をタップしながらそう言う。 
 英霊を腕力だけで押さえつけるとはさすが我がマスター。っていうか痛いです本気で。 
「どうして何も知らない子供たちの前でもとの姿に戻ってるのかしら?」 
「それには深い事情が」 
「じゃあその事情とやらをゆっくり聞かせてもらいますね? おうちで」 
「サクラ、わかりましたからせめてそのアイアンクローを外して」 
「ほら、坊やたちもそろそろおうちに帰らないとお母さん心配してるわよー?」 
 指の隙間から見えるサクラがにっこりと黒っぽい笑顔を見せると、子供たちは何かに脅えたように一目散に自宅へと帰っていく。 
            「そうです子供たち。ゴルゴムの魔の手には」 
「まだ言うかこの娘は」 
「痛いですサクラ。ギブ、ギブ」 
 
「で、どうして人前でその姿になったりしたのかしら?」 
 居間に正座させられてそう聞かれる。 
 そして向かい側にはにっこりと微笑むサクラ。 
 さすがリンの妹、殺気を込めた笑顔は遠坂の血がなせる技に違いない。 
「正直に言ってくれれば怒らないから、洗いざらい話しなさい」 
 怒りながらそんなこと言われても説得力ないと言うのに。 
 これだからゴルゴm 
「ギブ、ギブアップサクラ」 
            
              
             
             あれは、ある日タイガーを連れて公園に散歩に行ったときのことだった。 
            「なんだよー。ここは俺らがサッカーしてたんだぞー」 
            「うっせぇガキ。とっとと失せろっ!」 
             状況分析。 
             サッカーは知っている。 
             ボールを持っていることから考えると、あの子供たちがサッカーをしていたのだろう。人数が足りない気はするが、それは何か理由があるのだろう。多分それはたいした問題ではないと推測されるので考慮しないことにする。 
             それで、ボールを持った子供の前にいる特徴的な頭髪の人間。 
             年齢は士郎と同じぐらい。 
             でも見たところ身体能力も頭脳もはるかに劣っていそうだし、魔術も使えないだろうし顔も不細工。 
            「ふっ」 
             思わず鼻で笑ってしまった。 
            「なんだ姉ちゃん、見世物じゃないんだ。あんま近寄ると怪我するぜえっ?」 
             やっとこっとに気がついたのか、こっちに近づいてきながらそんなことを言っている。 
             なんだかこっちをにらんできているようだが、えーとこれは…… 
             ああ、『ガンを飛ばす』と呼ばれる行為だ。藤村組の人が教えてくれたやつ。 
             つまりこの人は私とにらみ合いをしようとしているということか。 
             メデューサである私と。 
            「……頭は大丈夫ですか?」 
            「んだこらっ!」 
             本気で心配して声をかけてみたら、何故か怒らせてしまった。 
             思ったより素早く詰め寄ってくると私の胸倉を掴みあげる。 
            「ほおぅ……」 
             と、思ったらなんだか急にニヤニヤし始めた。 
             やっぱり頭が大丈夫じゃない人だったのだろうか。 
             いや、なんだかこの反応には見覚えがある気がする。えーと。 
            「姉ちゃん、よくみて見りゃいい身体してるじゃねえか」 
             ……ああ、そうだ。そう言えばシンジが初めて私を見たときに同じような反応を。 
             そして次は確か 
            「まあいいや、こんなガキどもほっといてどっかいいとこに」 
             そう、こんな感じで私の身体に手を這わせてきて 
             
            ごがしゃめしゃ。 
             
             ……あ。 
             つい嫌な思い出がフィードバックしてきて殴り飛ばしてしまった。 
             頭悪そうな男は……公園のベンチに頭から突っ込んでぴくぴく痙攣している。 
             しまった。男が突っ込んだ公園のベンチは見事に壊れている。 
             ついうっかり男を全力で殴り飛ばして公園のベンチを壊したなんてことがサクラに知れたら晩ご飯が抜きになるかもしれない。それは困る。士郎が「今日は刺身にするぞ」と言っていた。刺身って言うのがどう言う料理かは知らないけれど、士郎が楽しそうにいうのだから美味しいものに違いない。それが食べられないのはとても困る。 
             突然のピンチにどうしたものかと思い悩んでいると、頭悪そうな男に絡まれていた子供たちが心配そうに走り寄ってきた。 
            「お姉ちゃん、どうしたの?」 
            「強いねー、お姉ちゃん」 
            「この猫、お姉ちゃんの猫?」 
             さっきまで男に難癖つけられて困っていた子供たちがとても嬉しそうに私の周りでわい わいと言っている。 
            「いえ、あの男をついうっかり全力で殴ってしまって……」 
            「でも、あいつ悪いやつだから大丈夫だよ」 
            「そうだよ。お母さんもあいつみたいなのは危ないから近づいちゃいけないって言ってたし」 
            「お姉ちゃん正義の味方だよ」 
             正義の味方。 
             そう言えば士郎が目指していたという話を聞いたことがある。 
             士郎と同じことをしたのだと思うと、ちょっと誇ってもいいような気がしてきた。 
            「お姉ちゃん、お名前はー?」 
            「はい。ライダーといいます」 
             問われて答えると、子供たちは一瞬驚いたような顔をした。 
             どうしたのかと思い子供たちに聞こうと思うと 
            「すげー、お姉ちゃんライダーなんだ!」 
            「ライダーだから悪者やっつけたんだ!」 
            「じゃあじゃあ、さっきのはライダーパンチ!?」 
             子供たち大興奮。 
            「でも、仮面してないよー?」 
            「本当だ。仮面は−?」 
            「仮面は−?」 
             子供たちは大興奮のまま詰め寄ってくる。 
             仮面といわれても…… 
             あ。 
            「これでどうでしょうか」 
             サクラへのレイラインを活性化、必要となる魔力を引き出す。 
             そして魔眼殺しを外すのと同時に宝具を具現化。 
             自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン) 
             魔眼を封じるために顔の半分近くを覆う宝具を装着する。 
             すると 
            「すげー!」 
            「変身だ変身―!!」 
             子供たち、さっきのなんか目じゃないぐらい大興奮。 
            「服は変わらないのー?」 
            「え、ええ。可能ですが」 
             先ほどと同じく魔力を引き出し、戦闘用の衣服を具現化。 
             聖杯戦争の際に使用していた衣服を装着する。 
            「うわー、うわー!」 
            「すごいや、本物だ本物―!」 
             子供たち、もはや熱狂。 
             とても嬉しそうな子供たちを見ていると、こっちも嬉しくなってきて期待にこたえたくなってくる。 
            「でも、変身のポーズはないの?」 
            「ポーズ?」 
             それは知らない。 
             魔術師ならば何らかの動作を行った後に魔術を行使することもあるが、私は英霊だ。 
             宝具を使用する場合でもなければ特に動作が必要になることは無い。 
            「知らないの?」 
            「すみません……」 
             子供たちの期待にこたえられずに落胆していると、一人の男の子が私の前に進み出てきた。 
            「しょうがないなあ。教えてあげるよ」 
            「うん。勇くんは仮面ライダー詳しいから大丈夫だよ」 
            「……よろしくお願いします」 
             そして、私は勇くんの指導のもと、正義の味方仮面ライダーになるために日夜練習を繰り返した。 
             
            
            
  
             
            「……と、いうわけです」 
             私の説明が後半に差し掛かり、子供たちとの心温まる交流を報告するころにはなぜかサクラは疲れたような顔をしてへたり込んでいた。 
             人の話を聞かないと言うのはとても失礼なことだと思うのだが、どうだろうか。 
             そしてしばらくしてから、サクラはのろのろと顔をあげた。 
            「じゃあ何。子供たちと仮面ライダーごっこするために宝具を使ったと」 
            「ごっことは失礼な。そのままついでに繁華街で悪さしてるチンピラを懲らしめに行ったりもしました」 
            「『ついで』って言うのは何よっって言うかそんなことするんじゃありませんっ!」 
             怒られた。 
             サクラは最近怒りっぽい気がする。 
             これはやっぱりゴルゴ 
            「ゴルゴムは関係ありません」 
             サクラのサーヴァントである以上意識して遮断しなければ思考が考えていることが向こうに伝わってしまう。結構嫌だが、ここで遮断したりするとより一層怒られたりしそうなので我慢。 
            「と言うかサクラ」 
            「なに?」 
            「サクラはゴルゴムを知っているのですか?」 
            「……」 
            「……」 
            「……」 
            「サクラは、仮面ライダーBlackの敵組織であるところの暗黒結社ゴルゴムを」 
            「いちいち正確に言い直さなくてもいいですっ!」 
             怒られた。 
             でも今度の怒られ方はちょっと不条理な気がする。 
            「まあいいです。先輩に言って先輩からもきっちりしかってもらいますから」 
            「ああ、サクラそれなら」 
            「ただいまー」 
             庭の方から士郎の声が聞こえた。 
            「先輩、聞いて下さい。ライダーが」 
             そう言って士郎のほうに向かうサクラに続いて庭に出る。 
             そしてそこにいたものは士郎と 
            「士郎、さすがです」 
            「いや、頑張ったよ」 
             私の愛機となるバイクが。 
            「なんですかそれはっ!」 
             サクラはまた叫んでいる。 
             カルシウムが足りないのだろうか。士郎に進言してメニューにそれとなく取り入れてもらうのがサーヴァントの勤めかもしれない。 
            「何ってライダーのバイクだけど。いや、仮面ライダーは好きだったからねー。この辺なんかどうもうまく加工できないから投影魔術で一から作ったし」 
             そう言っていい感じな額の汗をぬぐう士郎の横にあるのは私の愛機となるバトルホッパー(レプリカ) 
            「さすが士郎。これで街の平和を守れます」 
            「あ、でも投影で作ったとこは脆いからぶつけたりしないように気をつけてくれよ?」 
            「士郎は私が誰だか忘れたのですか。騎乗A+は伊達ではありません」 
            「っていうか、先輩まで何してるんですかっ!」 
            「何って、ライダーが『仮面ライダーになるからバイクが欲しい』って言ってたからバイクの改造を」 
            「さすが士郎。この短期間でここまで再現できるのはあなたしかいません」 
            「第一そのバイクどうしたんですかっ!そんなもの買うお金はどこにも」 
            「いや、雷画じーさんに『仮面ライダーのバイク作る』って言ったら『ガレージにあるバイクは全て好きに使え』って」 
             さすがです雷画。 
             組織の長となる人間は器が違う。 
            「わぁぁぁん! 藤村先生ぃ!!!」 
             私が士郎といっしょにバトルホッパー(レプリカ)の調子を見ていると、サクラはタイガの名前を叫びつつ走り去って行った。 
            「……どうしたんだ?」 
            「先ほどから情緒不安定でした。夕食のメニューにはカルシウム豊富なものを用意した方がいいのかもしれません」 
            「あー、そうだなー。桜には苦労かけっぱなしだし」 
             ほうれん草あったっけかなー、とか言いつつ士郎は台所へと去っていった。これでサクラも少しは落ち着くだろう。 
            「いいことした後は気分がいいものですね」 
             そして私は、引続きバトルホッパー(レプリカ)の調子を見ることにした。 
             
             
             
             
             
             ちなみにその後の桜はと言うと。 
            「藤村先生、先輩とライダーがっ!!」 
            「で、お爺様。ライダーが仮面ライダーなら私は宇宙刑事とかどうかと思うのよ」 
            「ふむ。変身はどうするかのう」 
             どこにも救いが無いことを知って絶望したり。 
             
             
             
            「仮面ライダーなんかいなくなっちゃえばいいんです」 
            「出ましたねゴルゴム!」 
             黒い影とライダーが死闘を繰り広げたりしたけどまあそれは別のお話ということで。 
             
             
             
            
             
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